歯周治療

その歯、残せるかもしれません

歯の一本あたりの金銭的価値は一般的に約60~120万円と言われています。
一概にあなたの大切な歯をお金に換算するわけではありませんが、歯を一本でも残せるのであれば、そこを治療することには十分な価値がありますし、歯を失う原因第一位である歯周病に対してどのような治療を行っていくのかは、とても大切であることだと考えています。

とても怖い歯周病という病気

歯周病というのはサイレントディジーズ(沈黙の病気)と言われ、虫歯とは違って重度になった場合でも痛みが出ることの少ない病気です。

歯茎が腫れたりすることはありますが痛みが出ないために、知らず知らずのうちに歯を支えている骨が溶けて歯の寿命が短くなるばかりか、最終的に歯を抜かなくてはならないことになるので、非常に怖い病気であると言えます。

歯周病になると
・口臭が気になる
・歯磨きをすると出血が止まらない
・歯茎が腫れる

などといった症状が起きてきます。
このような症状がある方は、歯周病の可能性がありますので、お早めに歯科医院でのご相談をおすすめします。

・虫歯=歯が溶ける病気
・歯周病=歯を支えている骨が溶ける病気
とご認識いただけるとよいかと思います。

歯周病治療で大切なこと

歯周治療のゴールは感染に強い、環境づくりとともに健康をご自身で維持できるための環境づくりです。
それは歯周病という恐い病気が引き起こす悪い細菌、つまり『歯を支える骨を溶かす』細菌に感染していても重度の病気になりづらい環境づくりにすることです。

口腔内から細菌を消滅させることは不可能です。
そのため『問題』をおこさない『病気になりづらい』状態にしておくことが大切になります。

まず大切なのは『問題』が起きない量の細菌量の維持が基本になります。
つまりブラッシングして口の中の細菌数を少なくしていることが重要になります。
やっかいなのは歯周ポケットの中の細菌の除菌です。これは歯周ポケットが浅ければ除菌しやすいですが、問題を起こすのは深いポケットに生きている細菌の除菌であり、非常に難しいです。
歯ブラシの毛先が十分に除菌できる深さに到達しにくいからです。

そういう部位がないか治療を始める前に『診査』しておくことが大切になります。
これがステップ0.の診査・診断になります。

歯周病治療で大切なことは、「敵を知り己を知れば百戦危うからず※」という孫子の有名な一節があるように、まず「正確なお口の状態を把握すること」を当院では大切にしています。
そのため当院では歯周精密検査を行っています。

※自分の実力と、両方をきちんと知っていたら、戦において負けることはないという意味

診査診断について

歯茎の状態を知る

・口腔内写真
・歯周ポケット検査

一つの歯に対して6カ所の歯周ポケット(歯と歯肉の溝のポケットの深さ)を測定し、また歯ぐきからの出血具合や歯ぐきの下がり具合、歯のぐらつき具合を見ます。
奥歯であれば歯根の股の部分の状態も見ていきます。
歯は通常根っこが見えない状態ですから、歯周精密検査を行うことはとても重要であり、これを行うことで歯茎の状態をより正確に知ることができます。

骨の状態を知る

・レントゲン診査
・CT

デンタル14枚法と言われるデジタルレントゲン写真を使って、1枚1枚細かく骨の状態を診査診断していきます。

噛み合わせ(力)を見る

・噛み合わせ診査
・精密検査

歯周病の進行は噛み合わせが原因であることもあります。
そのため正しい方向に適正な力が歯に加わっているかを診査します。
更に骨格の状態からも確認していきます。

細菌の状態を知る



・リアルタイムPCR検査
・位相差顕微鏡による診査
・口臭検査

歯を支えている骨を溶かすのは細菌の出す毒素なので、どの細菌が歯周ポケットに感染しているのか把握することが大切です。

まず、位相差顕微鏡によって簡単に細菌の状態を確認することができます。

その他に細菌の出す臭いについて検査(口臭検査)しています。
歯周病を引き起こす細菌を遺伝子レベルで特定(PCR検査)することで、より正確に状態を把握することができます。

歯周病治療の流れ

歯周精密検査後の治療のステップをご紹介します。

1.歯磨き指導

虫歯と同様に歯周病においても普段から正しい歯磨きが出来ているかが大切です。
しかしながら歯磨きをきちんと出来ている人は実は少ないのが現状です。
当院では歯科医師や歯科衛生士による歯磨きの仕方のアドバイス(ブラッシング指導)に力を入れております。
具体的には、歯周病の原因となってるお口の中の細菌の染め出しをして、磨けていないところを見える状態にします。
特にその部分に対しての歯ブラシの当て方を丁寧にアドバイスしながら歯磨き指導を行っております。

2.歯周基本治療(歯石除去、クリーニング)歯周内科療法

歯磨きが正しく出来るようになってから、歯茎の上にあるプラーク(歯垢)を取り除いていきます。
そしてブラシでは取り除くことができない歯石を機械的に取り除いています。

歯石が取れると炎症が治まり段々と歯ぐきの状態が良くなっていきますが、ただ歯ぐきの下に歯石がある場合は、それを取り除いていく必要があります。
その際に、薬を服用して治療する歯周内科療法を行うこともあります。(下記に詳しく掲載

3.再検査(歯周病精密検査)

歯石を全部取り除くことは難しいと言われており(特に歯周ポケット4mm以上ある場合)、歯周病専門医でも取り残すことがあります。
また取り残したかどうかはその時点では分からないので、歯石を取り終えた後に一定期間をおいてもう一度歯周病精密検査(レントゲンや歯周ポケット検査)を通じて評価を行います。
歯周病治療は生体に対して行っていますので、一定期間をおいて身体の反応を見る必要性があります。
治療を施して終わりではなく、時間をおいて評価することはとても大切なステップです。

また再度、その時点の歯周精密検査(レントゲン検査・歯周ポケット検査)において、歯周ポケットが残存していて骨が欠けているように見える場合は、外科的な治療(歯周外科治療)を行うケースが出てきます。
もちろんもう一度、より細かく歯石取りを行うこともあります。

4.歯周外科治療

歯周外科治療とは、ブラッシングや歯石除去など歯周基本治療を繰り返しても思ったように症状が改善しない場合に修復や再生を行う外科的な治療です。
歯ぐきを開いて明視下で歯石を取る歯肉剥離掻爬術(しにくはくりそうはじゅつ)や切除療法、歯周組織再生療法などがこれにあたります。
歯周外科治療を行うことでより歯の保存に良い影響を与ることができます。

5.再検査&メインテナンス

再検査を行い歯周ポケットの深さが減少していて、細菌がつけ入るスキの原因となるポケットが少なくなっているなど良好な結果が得られればメインテナンスへと移行していきます。

歯周外科治療について

歯を支えているのは歯ぐきではなくその下にある骨です。
その支えている骨がなくなっていくのが歯周病なのですが、歯周ポケットの深さが5mm以上だと骨が溶けていることが多いので積極的な歯周病治療アプローチ(外科的アプローチ)が必要となってきます。

歯肉剥離掻爬術(フラップ手術)

歯ぐきを開いて、歯石を目の見える状態で取ることができる方法です。
歯周基本治療では取ることのできなかった歯周ポケットの奥深くにある歯石を除去し、歯周ポケットが浅くなることを期待する治療です。
歯肉を切開し、歯肉の下の歯周ポケットの深い部分に隠れている歯石を機械的に除去します。

● メリット
保険が適応であること

● デメリット
深い歯周ポケットが残りやすくメインテナンスがしづらく、歯周病の再発の可能性が高いこと
再発予防として高頻度のクリーニングが必要になること

切除療法

歯肉を切開して歯槽骨(歯を支える骨)の形を整え、最後に歯ぐきを縫合し、歯周ポケットを浅くする治療法です。
歯ぐきがやや下がってしまうので、切除療法が適切かをしっかり見極め、慎重に治療を行う必要があります。
骨がガタガタしていると歯周ポケットが残りやすいので、骨の形態をコンベックスにすることが大切です。

この切除療法には2つの目的をもって行うことがあります。

その1.歯を支える骨の形態を整え、歯周ポケットを浅くして歯周病になりづらい状態にする治療方法です。
歯ぐきと骨を意図的に切除することによって、歯周ポケットを浅くしメインテナンスしやすい環境にすることが目的です。

その2.被せものをしっかり歯にかぶせられることは虫歯の再発予防、被せものの脱離予防に影響してきます。そしてそのためには型取りしやすい状態にしておくことが大切です。

専門的な言葉ですが、フェルール効果(帯冠効果)というものを獲得し歯ぐきの上に2mm以上の歯を得ることによって、歯を割れづらくしたり、被せものが取れたりする可能性が少なくなります。また虫歯が歯ぐきの奥深く骨の近くまで進行してしまっている場合は、そのまま被せてしまうと歯周病を起こす可能性が大きく、被せた後も歯ぐきが腫れが収まらないということが起きます。それらの予防のために切除療法を行うことがあります。

歯周組織再生療法

欠けている歯周組織(骨・歯根膜)の再生を行う治療法です。
歯周病治療において、歯周組織の再生は重要です。
重度の歯周病によって歯槽骨は溶けてなくなります。
歯石や歯垢を除去しても、歯周組織が完全に元に戻るわけではありません。
歯を支えるサポートが弱まり、結果として歯が残らない可能性が高まってしまいます。
そこで、歯をよりしっかり支えられるよう、歯周組織の再生治療を行います。

<歯周組織再生療法のポイント>

組織が再生するうえで「細胞」と「足場」と「増殖因子」の3つが大切な要因となります。
車を走らせるには、道路が必要ですし、ガソリンも必要ですが、
例えて言うならば、

車=細胞(骨細胞、セメント芽細胞、歯根膜細胞)
道路=足場(骨移植材)
ガソリン=増殖因子(EMD,FGF-2)
といったようになります。

「細胞」がより増えていくためには「増殖因子」が必要で、さらに加えて増殖しやすくするためのスペースの確保、つまり再生の場となる「足場」も欠かせません。
これら3つが再生療法をするうえで大切なファクターとなります。

そしてその3つの要因が維持安定していることが大切で、骨の形がおわん型のような形をしている場合は、上記の3つの要因が維持安定しやすくなり、再生されやすくなります。
逆に骨の形の状態が悪い場合は再生しづらいと言えます。

当院では再生療法を行う上で、

1.患者要因:全身の健康状態(既往歴や疾患の状態:糖尿病、高血圧、喫煙など)十分にブラッシングが行えているか
2.術者要因:歯科医師の外科的なスキル(基本的な術式の徹底)、どの材料をどの時に使用するか
3.欠損要因:骨の形態(角度、幅)、歯の揺れ具合、噛み合わせ関係、歯ぐきの厚み

これらを治療を成功させるための重要なポイントと捉え、綿密な診査診断、歯磨き指導、治療技術向上のための弛まぬ研鑽、適した材料の選定など、総合的に取り組むことで、最善を尽くした治療を行っております。

<当院の歯周組織再生療法の実症例>

歯周ポケットは、健康な状態だと1mm~2mmで3-4mmであれば手入れ次第で歯周病は進行しにくい深さです。5mmを超えてくると、歯周病が進行していくリスクが高くなります。
それを進行していかないようにするために、歯周組織再生療法が一つのマネジメント方法です。

それは歯周組織再生療法によって、具体的に下記を改善することが期待できるからです。

① 歯肉退縮の減少
歯ぐきが薄い場合、骨がない場合、歯ぐきはどんどん下がってていきます。
逆に骨が厚いと歯ぐきが下がりにくくなるので、歯周組織再生療法によって、これ以上歯ぐきが下がらないようにします。

② 付着の獲得と増大
歯と骨というのは、歯根膜を通してくっついています。
歯周病という状態でその歯根膜が失われている場合、それを獲得することを期待できます。

③ 支持骨の増大
歯を支えているのは骨ですが、歯周病によって失われた支持骨の獲得を期待できます。

● 歯周組織再生療法のメリット
歯を抜かなくてすむことがある
歯周ポケットの減少による歯周病の改善
メンテナンスがしやすくなる
歯根膜の獲得
支持骨の増大

● 歯周組織再生療法のデメリット
必ず狙い通りに骨が再生されるわけではない。
外科的な処置が伴い、痛み、腫れ、出血が起きます。


結合組織性移植

歯ぐきが薄く下がってしまって、象牙質が露出してしまった場合、薄いままだと歯ぐきがどんどん下がってしまい、見た目が悪くなることはもちろん、知覚過敏の症状が強くなってしまったりします。
また象牙質はエナメル質に比べて2倍ほど虫歯になりやすいと言われています。
そういったことを予防する目的で、薄くなったり下がってしまった歯ぐきを可能な限り厚くさせて、これ以上下がっていかないようにするために、当院では結合組織性移植を行っています。

<結合組織性移植の流れ>
1.上あごの内側の歯肉を、歯ぐきが薄くなっている歯肉部分の中に移植して厚みを増やします。

2. 移植してからおおよそ1~2週間後に抜糸となり、そこからは普通に歯磨きができる状態になります。

3.右の写真は術後3年後のものになります。
これ以上歯ぐきが下がらない状態を維持することができるので、歯を守るために大変有効な治療法と言えます。

同じように、インプラントの周りに歯ぐきを増やすことで、インプラントを維持安定させるうえで有効な方法でもあります。
(遊離歯肉移植術)

当院ではこの「結合組織性移植」をスタンダードな治療法として行っています。

● メリット
歯ぐきを厚くすることでその後に歯ぐきが下がりづらくすることができます。

● デメリット
上あごから歯ぐきをとってくるので、傷が治るまで気を使います。


遊離歯肉移植

硬い歯ぐきと柔らかい歯ぐきがあるのですが、歯を抜いたり骨を増やしたりすると硬い歯ぐきが失われることが多くあります。
硬い歯ぐきがあるほうが歯周病になりにくく、メインテナンスしやすい状態を獲得することができます。
逆に、硬い歯ぐきがないところは歯ぐきが失われやすく、歯磨きをしたときに傷つきやすい状態になります。
必要なところには遊離歯肉移植を行っています。

● メリット
メンテナンスしやすくなる

● デメリット
外科的な処置なので、痛みや腫れ、出血を伴い傷が治るまで気を遣います。


歯周内科療法について

これまでお伝えしたような物理的に歯石を取ることだけではなく、薬物療法で細菌を除菌する方法です。
時間の経過とともに薬効効果は徐々に薄れ、細菌数は増加し、しばらく経つと治療前とほぼ同じ状態に戻ることがあります。
そのため歯周内科療法と並行して歯石除去・クリーニングを行うのが効果的です。
当院では、歯周ポケットの中に歯周病を引き起こしている悪い細菌が本当に存在しているのかリアルタイムPCR法(細菌の遺伝子検査)を行って検査も行っております。

噛み合わせと歯周病について

歯周病が進行する原因の一つに噛み合わせに原因があることもあります。
干渉(噛み合わせの負荷)が強い場合も、歯周病が進行するケースがあり、その場合はこれらのような歯周病治療と同時に噛み合わせの治療も必要になってきます。
当院では、正しくその原因を究明するために、歯周病検査だけでなく噛み合わせの検査等、総合的な診査診断を行っています。
詳しくはこちらに掲載

エクストルージョン(歯根挺出)
~補綴治療、歯周病治療のための部分矯正~

歯肉の下にある歯を、歯列矯正と同じ原理で引っ張り出す治療法です。
歯は、弱い力を常時かけ続けることで移動していきます。

エクストルージョンは通常、歯根だけが歯ぐきの中に残っている場合、予後不良で抜歯と言われることがありますが、歯茎の中から歯を引っ張り出すことで歯を抜かずに歯の状態を改善させ被せ物を行えるようにするための治療法です。

その他、応用編としてエクストルージョンによって歯を動かすことで骨の形態を変えることができ、それによって再生療法を成功しやすい状態にできるので、歯周病治療のためにこの治療法を用いることがあります。

症例

症例1

右下の重度に歯周病に罹患した歯の保存を行った症例

症例1の詳細になります。
他院にて抜歯と言われセカンドオピニオンで来院された患者さんです。予後は悪かったのですが、根管内の感染と歯根周囲の感染の療法を疑ったため、歯周基本治療とともに根管治療を行いました。改善は見られたものの、確定的外科処置が必要なため、より結果を容易にするため部分矯正治療にて骨の欠損形態を変更し、歯周組織再生療法を行い、最終的にかぶせものを行った症例です。現在3年が経過しております。

治療内容 歯周組織再生療法+部分矯正
治療期間 約1年半
費用 約15万円~30万円
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